アイアンを評価するときに、「打感が柔らかい」と使うことがあります。
ソフトなインパクトだけではなく、スピンの効いたボールが期待でき、ゴルファーの憧れるモデルとなっていました。
ところが最近では、柔らかい打感を求めことが少なくなったようなので、その背景を探っていきます。
ショット時の打感が柔らかい軟鉄鍛造アイアンとは?
「打感が柔らかい」という言葉を使ったこと、または聞いたことありませんか。
ボールを打ったときに柔らかいと感じるのであれば、スピン量が増えて止まる球が期待できます。
もちろん、止まる球を打つ技量は必要ですが、道具による効果が大きな部分を占めていることが想像できます。
一般的に柔らかい打感が得られるアイアンは、「軟鉄鍛造」だと言われています。
軟鉄(なんてつ)が柔らかいのは漢字を見ただけでも分かりますが、鍛造(たんぞう)は日常で使われる機会は少ないかもしれません。
柔らかい鉄を高温で焼いてから叩き、また高温で熱してから叩きを繰り返して造ることを鍛造と言います。
日本刀や高価な包丁で焼きを入れたものは、この鍛造と呼ばれる製法で造られています。
焼きを入れて鍛えた鉄は、ボールを打っても変形しないほど硬くなっています。
しかしながら元々の素材である軟鉄のおかげで、打感は柔らかいと感じることができるわけです。
「それは凄い!」と自分も軟鉄鍛造のアイアンに変えようと思うかもしれませんが、扱うための技量がないとその柔らかい打感を得ることはできません。
打感の柔らかいアイアンは難易度が高くて扱えるだけの技量が必要
軟鉄鍛造のアイアンは、打感の柔らかいことがメリットですが、一般ゴルファーにはデメリットもあります。
まず製造工程で手間がかかっていますから、一般的なアイアンと比べると高価な値段がネックになります。
値段に見合った腕前があればそれなりの効果はありますが、もしも扱いきれなければ、まさに宝の持ち腐れになってしまいます。
ただし全般的にゴルフの道具は高価なものですから、費用に対する価値については、それぞれの考えがあると思いますし、購入できないほどのことはありません。
型落ちと呼ばれる旧モデルのアインアセットなら、他のクラブ同様に半額程度になっている場合もあるので、手が届かないということもないようです。
問題なのは、成形できるヘッドの形状が限られていることです。
「焼いて叩く」製造工程の軟鉄鍛造アイアンの代表格はマッスルバックです。
一見すると薄い板がヘッドになったような、技量を問われるプロが好むアイアンでもあります。
以前に比べるとスイートスポットが広くはなってきましたが、それでも他のクラブと比較すると、難易度の高さは変わってはいません。
打感の柔らかい軟鉄鍛造のアイアンとフォージドは別物?
柔らかい打感の軟鉄鍛造アイアンは、「フォージド」と呼ばれることがあります。
当初は軟鉄鍛造のアイアンの名称として使われていましたが、現在では製造工程である「鍛造」に対して使われています。
軟鉄鍛造の鍛造だけが残って、軟鉄ではない複合素材のアイアンにも使われることが多くなってきたからです。
軟鉄を使わない理由は、それに代わる優れた素材が見つかったからです。
軟鉄よりも低価格で、しかも錆びず保管することができ、さらに軟鉄鍛造同様にライ角やロフト角を調整するメリットは残したままという点が人気となったようです。
上級者にとっては自分好みに調整のできるアイアンという点では、満足のいくものになっています。
一方で打感については軟鉄に敵いませんが、それもまた感覚的なものなので納得していれば問題はないようです。
この感覚的な柔らかさについては、海外と国内では考え方が違うようです。
海外では素材を溶かして型枠に流し込み成形する「鋳造(ちゅうぞう)アイアン」が主流です。
製造工程が簡素化さているため、低価格になっていることが人気の要因の1つになっていますが、最大の理由は「飛ぶ」ということです。
アイアンの打感が柔らかいのは単なる感覚でしかない?
基本的にピンポイントに距離を刻むアイアンは飛距離を必要としていませんが、それは国内での価値観であるようです。
打感が柔らかいのはあくまでも感覚であり、実際に軟鉄鍛造とステンレス鋳造をテストしたら、打感に違いを見つけることはできなかったそうです。
鍛冶職人が鍛えた高級包丁とステンレス製の安価な包丁を、切り口だけで比べても判断できないのと同じような結果になったわけです。
海外ではその合理性を受け入れて人気を博していますが、熱して叩く伝統技を尊重する日本国内と、どちらが正しいということはありません。
ただ残念なことに、最大の売りであった柔らかい打感は、実際のテストで見極めることはできないのが事実となっています。
元々感覚的な意味合いが大きい柔らかい打感ではありますが、微細な距離感が求められるウェッジでは人気を博しています。
それが結果によるものであれば、やはり目に見えない感覚の中で効果はあるのかもしれません。
進化によって柔らかい打感でしかも飛ぶアイアンができた!
2種類のアイアンをテストして打ち分けても、柔らかい打感を知ることができないにも関わらず、やはり軟鉄鍛造は人気のあるクラブです。
特に上級者になるほど「感じを出す」ためのアイテムとして、軟鉄鍛造は憧れの存在となっているようです。
しかしながら一般ゴルファーにとっては、複合素材で作られたフォージットで十分な性能を享受しています。
しかも技術が進歩して、柔らかい打感の部分だけをフェース面にはめ込む技法が開発されたことで、飛んで止まるアイアンができてきます。
ここから先は各メーカーが技術を駆使して軟鉄鍛造以上に打感が良く、しかも高性能のものを開発したため、対象としたアマチュアゴルファーだけではなくプロゴルファーも使用するようになります。
伝統的な軟鉄鍛造でなくても、柔らかい打感でアイアンショットを打てるようになり、さらに鍛造では作れなかった複雑で高性能のヘッドと組み合わせることができるようになったのです。
打感の柔らかいアイアンの時代は終わった?
普通は柔らかい打感で、しかも飛ぶアイアンができればそこで終了となるところですが、各メーカーは本物の柔らかい打感を追求していました。
軟鉄鍛造のアイアンとステンレス鋳造のアイアンをテストして、違いを感じることができなかった理由を突き止めます。
それは実に簡単なことで、軟鉄の厚みが足りないことが柔らかい打感にならなかった原因だったのです。
フェースに厚みを持たせれば、明らかに打感は変わり「柔らかい」を実感することができたのです。
マッスルバックのスイートスポットの裏側に膨らみを持たせることで、本物の柔らかい打感を実現することができました。
結果的にゴルフ市場はどうなっているかというと、マッスルバックは一部の上級者のために今でも作られ、一般ゴルファーの多くは高性能の飛ぶアイアンの中で、止まるタイプを兼ね備えたアイアンを選ぶようになります。
あえて難しい軟鉄鍛造を使う時代は終わり、ステイタスを感じることもなくなってきたのかもしれません。
打感が柔らかいアイアンの終焉と新たな時代
アイアンの打感は柔らかいほうが良いと考えられていましたが、実際にテストをすると硬いと言われるアイアンとの違いは分からなかったそうです。
その間でアイアンの性能は進化を遂げて、柔らかいと言われた軟鉄鍛造を超えるものを作り上げることができ、時代は次のステージへと移行したように思われます。