ゴルフ会員権を保有することは、ゴルフプレイヤーにとってはひとつの夢でしょう。
一方で、バブル時代に発行されたゴルフ会員権は、会員権の時価が著しく下落したり、最悪の場合は、ゴルフ場自体が破綻したりするケースがあります。
その際には下落した価額分を減損処理することになります。
ただ、減損損失が税務上(法人税、所得税)で損金の扱いになるかは条件によります。
今回は、節税になりうる条件を確認ましょう。
ゴルフ会員権の取得時の会計処理、税務処理
ゴルフ会員権とは、ゴルフ場の利用権のことです。
該当するゴルフ場の会員権を取得すれば、非会員に比べて割安でプレーができたり、優先的にプレー予約が可能となる、ゴルフ場主催の競技会へ参加できる等の特典があります。
そんなゴルフ会員権の取得に際しては、会員権本体に加え、名義書換料や売買業者に支払う仲介手数料があります。
これらの取得に要した支出は、税務上では損金として扱われません。
ゴルフ会員権を取得するために直接要した費用という扱いになるからです。
従って税務上の取扱に準じる形で、ゴルフ会員権と付随する名義書換料や仲介手数料はすべて資産として会計処理をすることになります。
但し、法人会員で取得後に登録メンバーの変更があったような場合には、名義書換料が発生しますが、この場合は取得のためというわけではないため、損金計上することになります。
また、取得後に発生するゴルフ倶楽部へ支払う年会費、ロッカー使用料に関してはゴルフ会員権が資産計上されている場合は交際費になるとされています。
なおゴルフ会員権は、資産として計上されていて、以降の項目のように時価も存在するため減損処理の対象となります。
ゴルフ会員権の時価
ゴルフ会員権には流通市場があり、売買が行われていて、売買相場があります。
ゴルフ会員権の売買取扱業者は複数存在し、それぞれの業者が売買相場をインターネット等で公表しています。
株式市場のように、統一された市場というわけではありませんので多少のばらつきはありますが、ほぼ似通った売買相場となっています。
ただ、特にバブル期に募集されていたゴルフ会員権は、当時何千万円、何百万円していましたが、バブル崩壊後、ゴルフ会員権は下落の一途をたどっているのが実情です。
また、最近ではインターネットの普及などにより、会員でなくても割安でプレーができるなどといったこともあり、1口、1万円といったようなタダ同然の価格がついているようなゴルフ場でも、以後の維持費用などがかかることから人気薄になっているようです。
バブル期では投機対象であったゴルフ会員権は、その影を潜めてしまっていて、次の項目に出てくるように減損処理の対象となります。
なお、会計と税務の取り扱いも違いますので順次説明していきます。
減損処理の手順
減損とは、保有する資産の収益力や時価の著しい下落があった場合に、その下落した時価等まで資産の取得価額を切り下げることをいいます。
そこで減損処理は次のようなステップでの検討を行います。
①減損処理の兆候の把握
まず保有資産について、次のような兆候の有無を把握します。
・資産又は資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益又はキャッシュフローが、継続してマイナスとなっているか、あるいは継続してマイナスとなる見込みであること。
・資産又は資産グループが使用されている範囲又は方法について、当該資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化が生じたか、あるいは生ずる見込みであること。
・資産又は資産グループが使用されている事業に関連して、経営環境が著しく悪化したか、あるいは悪化する見込みであること。
・資産又は資産グループの市場価格が著しく下落したこと。
②減損損失の判定
当該資産又は資産グループに減損の兆候がみられる場合には減損損失の認識を行うかどうかの判定を行います。
当該資産又は資産グループから得られる割引前将来キャッシュフローの総額が帳簿価額を下回る場合には減損損失を認識します。
③減損損失の測定
減損損失の認識を行うと判定された資産又は資産グループについて、その帳簿価額を回収可能価額まで減額します。
帳簿価額と回収可能価額との差額を当期の損失(減損損失)として処理することになります。
なお、回収可能価額とは次のうちいずれか大きい方を採用します。
・使用価値:資産又は資産グループから得られる将来キャッシュフローの割引現在価値
・正味売却価額:資産又は資産グループを現時点において売却した場合における売却価額
ゴルフ会員権の減損処理を検討する際も、これらのステップに従うことになります。
税務上の減損損失の金額も同様の方法で把握していくことになります。
ゴルフ会員権の具体的な減損処理
ゴルフ会員権の減損処理を検討するにあたっても前述と同様の手順を踏むことになります。
①減損処理の兆候の把握
単純にゴルフ会員権を保有する場合であると、次のような兆候が考えられます。
・資産又は資産グループが使用されている事業に関連して、経営環境が著しく悪化したか、あるいは悪化する見込みであること。
ゴルフ上運営が厳しい場合、最悪のケースとして民事再生や破産と行った法的手段で、破綻するケースがあります。
この場合には、経営環境が著しく悪化したということに該当します。
・資産又は資産グループの市場価格が著しく下落したこと。
前述までにようにゴルフ会員権の時価が、取得価額より50%以上下落した場合には、減損の兆候に該当します。
なお、運営会社から決算書が送られてこないケースが多いため、次のような兆候は把握しにくいと考えられます。
・資産又は資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益又はキャッシュフローが、継続してマイナスとなっているか、あるいは継続してマイナスとなる見込みであること。
・資産又は資産グループが使用されている範囲又は方法について、当該資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化が生じたか、あるいは生ずる見込みであること。
②減損損失の判定
①で減損の兆候があった場合には、次のような判定を行います。
・資産又は資産グループが使用されている事業に関連して、経営環境が著しく悪化したか、あるいは悪化する見込みであること。
法的手段での破綻となった場合には、ゴルフ会員権の売買は停止されてしまいます。
あとは、運営会社から残余財産の配当があるのですが、破綻寸前まででほぼ財産を使用してしまっているため、残余財産の配当はほとんど見込めません。
つまり取得価額のほとんどが回収不能となるケースが多いでしょう。
・資産又は資産グループの市場価格が著しく下落したこと。
前述のようにゴルフ会員権の時価が、取得価額より50%以上下落した場合には、減損の兆候に該当します。
この際、業者によって多少時価が異なるため、複数の業者の公表している時価を平均することで客観性が増すと考えられます。
③減損損失の測定
②の減損の判定の結果、取得価額<時価等となっている場合には、差額を減損損失として測定し、決算書上も損失として処理する必要があります。
例えば、取得価額100で時価が40だった場合には、【取得価額100 - 時価40 = 減損損失60】となり、60を損失処理することになります。
なお当該損失は、税務上においては無条件に損金扱いはされませんので次項により説明します。
減損損失の税務上の扱い
ゴルフ会員権に関しての処理に関しては、法人税法の基本通達9ー7ー12にて、ゴルフ会員権の預託金について「退会の届出、預託金の一部切捨、破産宣告等の事実に基づき預託金返還請求権の全部または一部が顕在化した場合」に金銭債権として、貸倒引当金、貸倒損失等の対象となるとしています。
この規定によると、前述の減損損失は退会の届出、預託金の一部切捨、破産宣告等の事実に基づき預託金返還請求権の全部または一部が顕在化したという扱いではなく、単に取得価額を切り下げただけの処理であるため税務上は損金扱いとはなリません。
法人税法上は、減損処理を行ったとしても別表上の税務計算において加算の処理が行われます。
また、所得税法上も譲渡等による損失は損益通算という制度があります。
ただゴルフ会員権に関しては、単純に損益通算を利用して、給与所得等の他の所得との損益通算により所得から控除されるというわけではありません。
次項にて、税務上、ゴルフ会員権の減損損失が所得から控除される要件を見ていきます。
ゴルフ会員権の減損損失を無税にするための税務上の取扱
ゴルフ会員権の減損損失等の損失については、前述のように税務において所得から減算や損益通算するに当たり厳密な要件が存在します。
まず法人税法上は、減損損失を決算上で損失処理するだけではなく、退会の届出、預託金の一部切捨、破産宣告等の事実に基づき預託金返還請求権の全部または一部を顕在化させる必要があります。
従って、ゴルフ会員権を売却した場合やゴルフ場の運営母体からの預託金の切り下げや破産等の法的な通知があった場合には、損金として所得からの控除が認められることになります。
所有者からすると、ゴルフ会員権を手放すことは自らの意思で可能であるため、法人税法上の所得計算上で控除を受けようとすると、ゴルフ会員権の譲渡が必要ということになります。
次に所得税法上においては、平成26年4月1日より、ゴルフ会員権の譲渡損は他の所得との損益通算ができなくなりました。
そのため現在では、ゴルフ会員権を売却したとしても、他のゴルフ会員権の売却により生じた売却益がない限りは、損益通算が不可能であり、税務上の有利な扱いを受けることはできません。
なお、前述の税務上の取り扱いに関しては、税理士等の専門家に確認が必要です。
会計処理にするにもかなりの制限がある
ゴルフ会員権はバブル崩壊後、時価の下落傾向が続いてい、資産運用という性質は影を潜めています。
含み損を減損損失として会計処理することは可能ですが、税務上の恩典を受けようとすると、かなりの制限を受けます。
税務上の要件には十分に留意しましょう。
特に個人の所得税法では、損益通算が認められないため留意が必要です。